脳が見えたら
Kくんの場合、考えられる様々な働きかけの中から、多分、脳にとって良い刺激が与えられているのだろう、と受け止めることのできる反応のあるものを中心に、指導支援してきました。その反応は、最初は眼球の動きであったり、呼吸の仕方の変化であったり、それから口元の動き等でした。それらを決して見逃さないように細心の注意をはらい、そして、それに対する応答もていねいに行いました。喜ぶからといってしょっちゅう興奮させるのも良くないだろうとか、たまには、嫌なことの経験も必要だろうとか、特に根拠のない理由のもとに、でも何とか言葉を取り戻させたい、その一心で取り組んだのです。
もう一人、交通事故にあったAくんは、Kくんより回復状態は良くなくて、目も見えているのか、耳も聞こえているのかはっきりとしない状態でした。色々な色の光を目の前にかざして眼球の状況を確認し、どの色によく反応しているようなのか観察したり、同様に様々な匂いをかがせて好きそうな匂いをつきとめたりしました。こちらの想像の範囲でしかないのですが。それで、Aくんへのかかわりを始めるときには、反応のよい色の光を見せる、好きな匂いをかがせる等により、授業の開始を意識できるように取り組んだりしたのです。
Mくんは、よくない過去の出来事をフラッシュバックし、そのために強度行動障害といえるほどの自傷行為をくり返します。何年も前のことを、今まさに目の前で起きているかのような言動をくり返し、そして自他ともにコントロール不能の状況に陥るのです。ガラスを割ったり流血したりするので、目は離せません。主治医は、そっと見守るしかないと言います。でも、2分や3分ではない、その10倍、20倍の時間、その様子を見守ることは並大抵のことではできません。目の前にいる僕のことは、見えてもいないし声も聞こえてもいない様子です。今、この子の頭の中はどうなっているのか。一刻も早くそこから抜け出させたい。その糸口をみつけたいのです。
見えているのか、聞こえているのか、わかっているのか、いいことなのか、そういうことが、例えば気軽に映像等で確認できたらお互いにもっと楽になるだろうなと思いす。脳波測定による聴性脳幹反応や事象関連電位、fMRI等方法はあると思うのですが、例えばfNIRSをもっともっと簡便に、そして気軽に使えるようになれば現場で有効に生かすことができるだろうと思うのです。
こちらからの働きかけも含めての、さまざまな応答する環境が、彼らの脳にどう影響を与えているのかをライブ画像で見ることができたら、誰もが納得できる、そして誰もが実践可能な指導支援の方法を考えていくことができると思うのですがどうでしょうか。
脳にとって、できる限りの最善の環境・状況を整え、後は脳に任せる。
そういう方法です。
医学の世界では証拠(エビデンス)に基づく医療という考え方が定着しつつあるようです。これは、有効性が科学的に証明された治療方法を個々の患者さんに対する診療にうまく取り入れていこうという動きです。また、リハビリテーションの世界では、脳の仕組みに着目して機能回復を促進しようとする考え方が定着しつつあるようです。ニューロリハビリテーションというらしいです。fNIRSの使用により実際のリハビリ場面での脳活動を測定し、そのことから、やっぱりこの方法の方がいいようだ、というようなことを客観的に確認できるのです。そのようなことから、簡単な運動の反復では機能は改善せず、脳も変わらないということがわかったりするのです。
(参考 久保田競 宮井一郎 編著 脳から見たリハビリ治療 2005 講談社)
医療の世界と同じようにする必要などありませんが、医療の世界でできるのなら、そしてそれがとても有用なものなら、それを教育の世界でも活用したらどうかと思うのです。障害があるということの原因の多くが脳に起因するということであるならば、脳の状況をみんなで確認しながら指導支援を行うということがあってもいいのではないでしょうか。
脳の状況から考えて
「その方法より、こういうように動かす方がいいようだ」とか
「ある程度は聞こえているようなので、耳元での大きな声は失礼だろう」とか
「かなり無理をさせているようだ」とか
「爆発寸前の状況と考えられる」とか、そういうようなことを例えばライブ画像で確認できたなら、指導計画もたてやすいというものです。
将来的には、頭にちょっとした帽子のようなものをかぶって一日を過ごせば、時間系列に沿った脳の状況が記録される、そういうことも可能になるのだろうと思います。
「あの声かけで、その後、かなりの時間、やる気ホルモンが出てたようやな」とか
「やっぱりあの対応ではあかんかったんやで」とか、一日を振り返るのに役立つかもです。されるほうは一日中脳内を監視されているのでいやかもしれませんが・・・
脳内メーカーというお遊びのものがあるようですが、イメージとしてはあの様な感じです。
脳が全てではないと思っていますが、これだけ脳科学が流行ってきているのなら、教育の世界でも、もっと活用していくべきだと思っています。教育の側から、脳科学の側に様々な要請をしていくことも必要でしょう。20年後くらいには何とかなるでしょうか。
ちなみに、脳内メーカーによる僕の脳内イメージは、ほとんど「愛」でうめつくされています。参考までに・・・