お昼ごはん
例えば、今日のように学校行事の代休か何かで平日が休みになると、僕は妻と二人で昼ご飯を食べに行くことにしています。子ども連れではなかなか行けない、ちょっとだけ贅沢感を味わえるようなところを選んで、出かけます。回らない寿司屋さんとか、順番に新しい皿で料理が出てくるところとか、一般的に高い評価を得ている店とか、そういうところです。もちろん、僕のおごりということになっています。
年に数回のこの行事は、楽しみであることには違いないのですが、二つほど克服しなければならない課題を僕はかかえているのです。
その1
お二人ですか、こちらへどうぞ、と言われて案内される席は、大抵が向かい合わせの席になります。これが、まずなかなか難しい。僕は、昔から人の目を見て話をすることがとても苦手なのです。理由はよく分かりませんが、視線などできたら誰とも合わせたくない、人の視線はなるべく避けたい、と思っています。それは相手が妻であっても同じです。四人用のテーブルならまだましです。四人用のテーブルで二人横に並んで座るというのは、世間的に見てどう考えても不自然すぎるということは理解できるので、対角線上に座ることによって何とか視線を和らげることができます。二人用のテーブルになると、もうアウトです。人の目を見て話しなさいとか、人の話は目を見て聞きなさいとかいう立場でもあるので、努力はするのですが、食事が目の前に到着するまでの時間の長いことといったら、それはもう、罰ゲームのように感じてしまうほどです。だから、カウンターがあったりしたら、一直線にそこに向かいます。落ち着いて話もできるし食事もできるというものです。
その2
店によっては、とても人気があるということになるのですが、平日の昼間にもかかわらず満席になるところもあります。そこが、イタリアンか何かそんな感じのレストランであったりすると、間違いなく客は女性ばかりで、しかも、年齢もそこそこです。ということは、店内はその人達の話し声で充満してしまいます。それぞれのグループの話し声が、それぞれのグループに負けないような音量になっていくので、大変なことになります。人数が少ないうちは話の内容が聞くともなしに聞こえてきたりして−学校や先生の悪口はよくあります−、それはそれで聞き耳をたてたりすることもあるのですが、しまいには、あちこちの声が怒濤のように耳に襲いかかってきて、頭の中がボワンボワンと震えてくるというか痺れてくるというか、変な感じになって我慢しがたくなって早く店から出たくなってしまうのです。人の耳は、聞きたいことだけを聞き分ける能力があるはずなので、必要のない音は聞き流せばいいのですが、我慢できない。頬杖をつくような振りをして、両手の中指で耳の穴のところの出っぱりを耳の穴に押さえつけて対応しています。
教育相談で訪れた男子生徒が、こちらからの話しかけに対して顔を上げたり目を合わせないで答えたということを、対人的相互反応の障害であると判定してみたり、2〜300人を収容した騒然とした体育館で耳を押さえてうーっとうなっている生徒に、大丈夫と意味のない言葉をかけ、選択的注意の障害だからと説明したりすることを思い出します。
そういうことを言い出せば、自慢ではないけれど、もっともっと僕には課題があります。
できれば人とは話したくはないし、集団で行動するのはかなり嫌いです。電車では、端っこの席が空いていなければ座りません。人に挟まれるということが耐え難いからです。また、はっきりと先の見通しが立たないと落ち着かないし、予定通りにことが進まないといらいらしてどうしようもありません。また、机の上の状況など、自分で納得する形というものがあって、そのためには時間を惜しみなく使えるし、それを乱されると変な汗をかきます。それらのことが、普通とは違う、何とかがんばって我慢したり克服したりしないとと思ってこれまで自分なりに結構努力はしてきたつもりです。
でも、もうそろそろいい歳でもあるし、そういうことをいちいち気にするのもやめにしようかと思います。誰かに、それぞれに○○障害と命名してもらって、無理することはないからね、と言ってもらえたことにします。
だから、今日の昼ご飯は、ちょっと贅沢な何かを買ってくるか、ちょっと贅沢な食材で何かをつくってみるかして、いつもの食卓でいいともでも見ながら食べることにします。