小窓からの風景『おふろにはいろう』

そのうちできるようになる

 

小学校で1年生を担任していたときのことです。

よくある学級経営の形ですが、それぞれみんなにいいところがあって、お互いにそれを認め合おうということがしたくて「クラスなんでもチャンピオン大会」というようなことに取り組んだことがあります。かけっこ1番、ボール投げ1番、計算1番、こま回し1番というように、ちょっとした時間を使って何でもいいから全員で取り組む。そして、1番の子どもには、チャンピオンシールの贈呈とともに、盛大な拍手を送られるというものです。目指すべき形としては、2年生になるまでにクラス全員が最低1回は何かのチャンピオンになるということです。

 

やってみると、これがなかなか大変です。何をするにしても、1番になることに異様なほど執念を燃やす子どもがいて、あれもこれも勝ちにいくのです。何をやってもそこそこできる子だったので、こちらが一所懸命種目を考えてもシールがそこにいってしまうのです。3位までに入れば万々歳、ということに最初からしとけばよかったと思いました。

 

今から思えば、LDだったのだろうという子どもがいました。N君です。一所懸命話を聞くし勉強もがんばろうとする。でも、できない。どう教えても、どうがんばってもできない。申しわけないことでした。N君に自信をもたせたい。何でもいいから1番になってみんなから拍手されて、家でも喜んでもらいたい。そう思っていました。N君は、さいわい運動ができました。かけっこなら、ボール投げなら、なわとびなら…。でも、どれもあと一歩のところで一番にはなれませんでした。欲がないのが弱点だったのかもしれません。それでも、N君はいつでも「おもしろかった」とさわやかな笑顔をみせてくれるのでした。

 

あるとき、決められた時間内に何人の人とじゃんけんをして、何回勝つかという大会をしました。体育館で一斉に「最初はグー!」のかけ声が響き渡ります。しばらく様子を見て回っていましたが、あるところで、厳しい声が聞こえてきます。「早くしてよーっ!」「さっさとしてくれな、まけるやんか!」 なになに?と近づきました。Iさんを取り囲んでちょっとしたパニック状態です。「ちえちゃんかて、がんばってやってるんやからええやんか」という派と「さっさとじゃんけんしてくれな、ちえちゃんのせいでまけたらどうしてくれるん」派です。Iさんには障害があり、通常のじゃんけんは難しい状況でした。友達についてうろうろと歩き回って雰囲気を味わってくれたら、それくらいの軽い気持ちでしたが、気の利く友達が、同じように参加させてくれたいたのです。さあ、どう声をかけてこの場をおさめようと考えました。その間も、小競り合いは続きます。確かにじゃんけんができない状態では、参加が難しい。それをついてくるのは正当です。でも、できないことだけで、この場からはじきだしていいのか。何か、ワンクッションが欲しい。そう思っていたときです。ちょっと控えめながらはっきりとした声で「そのうちできるようになるわ」といった男の子がいました。N君です。その一言で、その場は不思議なくらいスムーズにおさまりました。みんなが納得したのです。あとで思ったのですが、N君には小さな弟や妹がいて、その成長ぶりを日々身近にみているからこその発言でした。

 

このときから、N君は間違いなくぼくの師匠となりました。お礼といってはなんですが、N君が一番になれる競技内容を何としても考え出さなければと思いました。

 

授業中、休み時間、いつでもどこでもN君を視野に入れ、研究しました。

 

そしてとうとう見つけました。ジャングルジム早上り下り競争です。万が一まけたら、第2回、第3回と続けるつもりでしたが、N君はぼくひそかな期待にこたえ、ぎりぎりのところで一番になりました。

N君、おめでとう!そしてありがとう!勉強もそのうちできるようにがんばろう!  

でも、それは十分には達成できませんでした。ごめんなさいN君。

 

最近、教室で一番荒れてしまっている子を見ながらこんなことを聞かれました。

「なあ、先生。こんな調子でも、ちゃんとできるようになっていくんやろか?」

当然、自信を持ってこたえました。

「そのうち、できるようになりますよ」。ありがとうN君。