
その5 醜いアヒルの子は白鳥?
私は患者さんに病気の説明をする時に、よく例え話をします。膀胱炎の人には、川の流れに逆らって上がっていく魚の話をします。この場合、魚とは大腸菌など膀胱炎の原因になる細菌のことで、川は尿道のことです。膀胱炎は便に入っている大腸菌が原因になることが多いのですが、それが様々な理由で尿道の出口より、尿道に入り膀胱まで達して数を増やして、頻尿や排尿痛などの膀胱炎症状を起こします。普通細菌の数が尿1cc当たり、5万から10万個程度なければ症状を起こさないので、1cc中1万個以下の細菌の数では、膀胱炎として認識されないということになります。従って、水分を十分に取って排尿の勢いを増加したり、おしっこを長時間がまんしない、などが膀胱炎の予防につながります。
「何故膀胱炎になるのですか。」という質問に対して、「川の上流に上がっていく魚を想像して見てください。」「魚が大腸菌で、川が尿道とすると、湖が膀胱です。」「川の流れが緩やかだと、魚はどんどん上流に上がって湖に到達します(膀胱炎になる)。」「ところが、湖から勢い良く水が流れてくると魚は流されてしまします(膀胱炎にならない)。」「従って、水をどんどん飲んでおしっこの勢いを増やすと膀胱炎になりにくいのです。丁度、川の流れが速くなって、魚が上流に上がれないのと同じですね。」
細菌性膣炎にかかった女性にはこういう風に説明します。「膣の中には乳酸菌という良いばい菌といくつかの悪いばい菌が住んでいるのです。乳酸菌は正義の味方で、悪いばい菌は街に住むチンピラみたいなものですね。普段正義の味方が勢いのあるうちはチンピラはおとなしくしていますが、一旦正義の味方の勢力が衰えると、チンピラたちが俺の天下だ、とばかりのさばってくるのですね。そして悪臭などを撒き散らすのです。」
子宮頸癌の検査の結果で、「意義の定まっていない非典型的上皮細胞」=ASCUS
というものがあります。これは、簡単に言うと「癌や前癌状態というわけでもなく、ただ正常ではないだけで、あまり異常の程度がわからない細胞」ですが、これを説明するのはなかなか容易ではありません。
私「ちょうど、醜いアヒルの子のように、白い白鳥の子の中に黒い子がいるのと同じようなもので、色は他の子供と違うのですが、実際にはおなじ白鳥の子であるといったようなものですね‐‐‐」
患者さん「先生、黒い子は白鳥じゃなくて、あひるの子ではないのですか?」
私「えっ?あっ、そうですね。−−−あひるの子ですね、確かに‐‐‐。」
たとえ話を作るのは簡単なようでなかなか難しい。難解な話を単純化した比ゆで容易に説明できる利点はあるが、その比ゆが何を云わんとしているのかを患者さんに分かってもらえなければ、病気の理解を助けるどころか、患者さんをただ混乱させるだけになるのである。ドクターの私も例え話に懲りすぎて、患者さんを混乱させることだけは避けたいと思っているのであるが、上例のように自分だけで空回りという事態も起こりうるのである‐‐‐。