その4 脅かすドクター

              成人病のコントロール

「そんなことをしたら、お医者さんに言って、注射してもらいますよ。」としつけのつもりで、こんな脅しを子供にする親御さんがいますが、これは関心できない脅しです。私たち小児科医は子供との距離を縮めたいわけで、決して注射を脅しの道具に使う気はありません。それにアメリカでは実際に注射をするのはナースで、ドクターではないですから、この脅しそのものが通用しません。ドクターは子供のよき相談相手でなければならないのです。それに、力ずくで抑えたり、脅しを使って、子供から適切な情報を得ることはできないのです。

ところが、大人が相手だと、少し事情は変わってきます(私は内科医の資格も持っています)。医師が患者さんの良き理解者でなければならないのは、子供の時と変わらないのですが、大人の場合は、医師が注射をしても、痛い注射に憤慨する人はいても、「こんな痛いことをする医師には何もしゃべってやらないから。」とふて腐る大人はほとんどいないでしょう。だから、注射の後でも普通の会話で必要な情報を得ることができます。そればかりではなく、大人の場合は子供相手には禁忌であった「脅し」が効果のあることがあるのです。

成人病では、初期の間は症状の無いことが多く、症状が出始めると、病状はかなり進行していることがあります。例えば、糖尿病は喉の渇きや頻尿などの症状のある時がありますが、症状の無い人も大勢います。しかし、糖尿病は、コントロールが悪いと長い年月を経て、様々な重篤な合併症を起こします。例えば腎臓の機能不全、目の網膜の病気、末梢神経炎、心筋梗塞や脳梗塞、末梢血管閉塞、様々な感染症にかかりやすくなるなど、数え切れないほどの合併症の可能性があるのです。

食事療法や運動療法にあまり関心のない人や、薬もあまりきちんと服用してくれない人には、必要以上の「脅し」が必要になることがあります。脅しといっても何も「今度血糖が下がらんかったらドタマかちわるぞーっ。」といったようなヤーサン風の脅しではありません。あくまでも医師としての紳士風の脅し(本当は単なる情報提供に過ぎないのですが、ここでは文脈上、脅しという言葉を使っています)なのです。例えば、「今のように糖尿病のコントロールが悪いと、10年20年後にはいろいろな合併症に悩まされることになるかもしれませんよ。足へ行く血管の循環が悪くなると足が腐ってくることもあるのです。足の切断で一番多い内科の原因は糖尿病なんですよ。腎臓も悪くなってきますね。人工透析の一番多い原因も糖尿病なんですよ。又、目も悪くなりますよ。失明も一番多い内科の原因は糖尿病なんですよ‐‐‐‐‐。」といった具合です。

ある日、糖尿病と高コレステロール血症のある患者さんの診察をしていると、コレステロールの値や糖尿病の指標が随分改善しているのに気がつきました。「すごいですね、Jさん。随分数値が良くなってきましたね。」「そりゃ前回先生に随分脅かされましたからね。」「‐‐‐」 確かに患者さんの自覚を促すという意味では私の「脅し」は効果があるのかもしれないが、患者さんの信頼を得ることができるのかどうかは‐‐‐定かではない。






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