自閉症(Autism
 
 
 自閉症が初めて紹介されたのは今から60年以上も前ですが、今日においても、自閉症の原因は解明されていません。但し、自閉症が母親の誤った育児の結果であるといった誤解や、予防接種との関連性は、現在では否定されています。
 アメリカでは
1,000人に36人程度の人が自閉症ではないかと推測されています。近年、その数が増えてきているのですが、それは新しい自閉症の定義が、より広範囲の子供を自閉症の範疇に入れている結果だと考えられています。自閉症は、人種や社会経済的地位に関係なく等しく認められますが、男子は女子より34倍高い確率で自閉症になります。
 
 
自閉症とは
 
 自閉症は、遺伝子レベルの異常によって引き起こされる脳の障害で、主に乳幼児期に発達障害を起こします。但し、乳幼児期だけでなく、一生を通じて様々な遅滞
障害を起こします。成長と共に自閉症の症状が改善することもあります。自閉症は、対人関係、コミュニケーション、そして行動興味の3つの領域での異常です。
 自閉症の症状はかなり個人差があり、自閉症を単一の障害というより、「スペクトラム」=連続体の障害で、類似の症状を起こす一群の障害との考え方もあります。すなわち、健常者から重度自閉症者まで障害の度合いは連続していて、各々(おのおの)の障害間にははっきりした境界がないと考えるのです。従って、自閉症スペクトラム障害(ASD)というと「広義の自閉症」ということになります。また、自閉度が低く知能指数が正常ないわゆる「高機能自閉症」と言語障害のないアスペルガー症候群(Asperger syndrome)がほとんど同義で使われることがあります。
 米国精神医学会のDSM
IV「精神疾患の分類と診断の手引」による分類では、自閉症は広汎性発達障害(PPDPervasive developmental Disorder)の中の自閉的障害(Autistic disorder)として位置づけられます。それ以外には、前述のアスペルガー症候群、レット症候群、小児崩壊性障害、他に分類されない広汎性発達障害(非典型的自閉症と呼ばれることがあります)が含まれます。
 
 
自閉症の原因
 
 自閉症の原因は分かっていません。遺伝子の異常が原因として一番考えられていますが、ウィルス、神経学的因子、感染、代謝、免疫学的因子など、遺伝子以外の要因も自閉症に関与しているのではないかと考えている研究者もいます。自閉症は、複雑な症状を有する障害なので、一つの原因ではなくて、多くの原因によって起こっている可能性もあります。
 脳のいくつかの領域の異常が存在するので複数の遺伝子の関与が示唆されています。自閉症児は、脳内に異常なレベルのセロトニンや他の神経伝達物質が存在するので、胎児の時に、遺伝子の欠陥によって脳の正常な発達が阻害されたのではないかと思われています。母親の育児が原因だとする説が過去存在しましたが、現在では否定されています。
 現在までのところ、予防接種と自閉症間の因果関係は、アメリカの
CDC(疾病対策センター)での多くの疫学的研究の結果、否定されています。
 
 
自閉症の症状
 
 主な症状は、対人関係 (社会的スキル)、コミュニケーション (言語と非言語)、そして行動
興味の3つの領域での症状ですが、最も著明な症状は人と係わり合いとコミュニケーションが上手くいかないということでしょう。以下、3つの領域に関する症状を説明します。
 
1.対人関係(社会的スキル)
 自分の名前を呼ばれても反応しない。相手との視線を避ける。抱かれたり寄り添うことを嫌がる。他の子供と遊ばないで一人遊びをする。他の子供に興味がない。他の人と楽しみや成し遂げたものなどを共有できない。他の子供の感情や気持が理解できない。
 
2.コミュニケーション
 話し言葉の発達が遅い。以前使っていた単語や文章が使えなくなる。普通でない調子やリズムでしゃべる、例えば、ロボットのようにしゃべったり、歌うような調子でしゃべる。会話が始められなかったり、会話を続けることができない。同じ句や言葉を反復使用する。
 
3.行動と興味
 ある特定の物だけに興味を示し、他のものに興味を示さない。手をひらひらさせたり、こまのように回転したり、上半身を前後に揺するような反復動作をする。服を脱ぐ時に、必ず同じ順序で脱ぐというような儀式的な行為、自分のルーチンをつくる。絶えず体を動かす。ある特定の物、例えばおもちゃの自動車の回転する車輪などに興味を示す。痛みは感じにくいが、光、音、接触などに対する感受性が極度に増す。おもちゃや何かの物で遊ぶ時に過度に繰り返したり、ある物を特有な方法や固執した方法で整えたりする。
 
 自閉症の子供中には、一時正常に発達した後、一旦獲得した発達を止めてしまう「後退」も見られることがあります。普通は
1才と2才で起こります。
 多くの自閉症児が繰り返し行動をしたり、噛んだり、頭をぶつける自傷行為をします。また、自分のことを「わたし」や「ぼく」という一人称で言わないことがあります。
 反復した文句を言うのは自分を落ち着かせるためであったり、腕で羽ばたくようにするのは自分が幸せであることを伝えたかったり、自身を傷つけるのは自分が不幸であることを伝えたりする目的があります。

 
自閉症の早期発見
 
 自閉症の子供の症状を改善するには、早期発見
早期介入教育をすることが重要です。以下、前述の症状と重複するところがありますが、自閉症児のもつ症状を箇条書きにしてみました
自分の名前に反応しない
何を欲しがっているか分からない
話し言葉の遅れ
何かを命令しても、それに従ってくれない
時々、耳が聞こえていないのではないかと思う時がある
聞こえている時があるかと思うと、聞こえてない時がある
バイバイをしない
以前は23の単語を使っていたり何かしゃべろうとしていたのに、今はしな    

時々、暴力的になる
変わった動きをする
異常に活発であったり、非協力的だったり、抵抗をする
おもちゃで遊ぶことができない
こちらが微笑んでも、微笑まない
目を合わせない
ある特定の行為を繰り返し、それ以外の行為をほとんどしない
一人遊びを好む
自分だけの世界に住んでいるように思える
他の子供に関心を示さない
特定のおもちゃや物に対して過度の執着心がある
長時間、あるものを並べたり置いたりする
 
 自閉症は早ければ生後8か月で診断されることもありますが、典型的症状は1才半(18か月)頃までに出ることが多く、一般的に自閉症が診断されるのは3才前後です。以下の症状がある場合は、小児科医に相談して下さい。
生後12か月を過ぎても声を出さなかったり、しゃべるまねをしない
生後12か月までに何かを指差したり、バイバイしたり、物をつかむような動作をしない
生後16か月までに一言もしゃべらない
生後24か月までに2語句を使わない
以前に獲得した言葉や社会的スキルを失う

 

 

自閉症のスクリーニング
 
 自閉症であるという診断は、早期発見
早期介入の立場から、なるべく早期に、それも正確に行う必要があります。ただ、自閉症の診断自体簡単ではないので、先ず自閉症の可能性のある子供を発見するスクリーニングが必要になります。自閉症の症状徴候は1才半までに出ることが多いのですが、23才にならないと診断されないことがあります。23才で話し言葉の発達の遅延は顕著になっていくので、診断が容易になるものと思われます。前回で列挙したような発達の遅れ、自閉症の症状徴候に気付いたなら、なるべく早く小児科医に相談して下さい。
 小児科医は健診のたびに、簡単なスクリーニングで発達の程度を評価します。自閉症を疑うと、より詳しいスクリーニング手段を使用し、子供の発達や行動について評価します。スクリーニングの方法は、両親からの情報に基づいたものもあれば、医師の観察に基づいたものもあります。そして、自閉症の可能性があれば、発達の専門医や他の専門家に紹介されます。
 乳幼児の脳は発達途上です、従って、早期発見
早期介入によって可能性を生かすことができるのです。ただ、どの年齢でも介入による利点があるので、発見が遅すぎるということはありません。
 
 
自閉症の診断
 
 自閉症は複雑な疾患で、発達の専門医や心理学者、神経内科医、精神科医、言語療法士、その他の専門職の人を含めて総合評価が必要になってきます。診断をより容易にするために、いくつもの発達のテストを行うことになるかもしれません。また、聴力異常があると、自閉症に似た症状を出すことがあるので、言語発達の遅延のある子供は聴力検査が先ず必要です。
 自閉症の症状の一部があり、典型的な自閉症でない子供は、PDD-NOSすなわち「他に分類されない広汎性発達障害」に分類されます。自閉症的な症状があっても、知能指数と言語スキルが正常な場合は、アスペルガー症候群と診断されます。正常に発達し、310才の間に突然発達が退行し、著しく自閉症のような行動をする場合は小児崩壊性障害の可能性があります。女子で、自閉的症候群のあるものは、性遺伝子が関与したレット症候群かもしれません。
 
 
自閉症の治療
 
 自閉症を完治する治療法はありませんが、自閉症のある症状を軽減し、社会的適応を促進する治療法は存在します。学習を通じて行動
コミュニケーションを改善する方法、薬物治療、その他サプリメント等を使用した方法です。こうした治療は単独で行われるよりは、いくつかの治療を組み合わせて総合的に行われます。
 

学習を通じた治療
 自閉症の社会的、言語、行動問題を改善するためにいくつもの学習プログラムが作られています。問題行動を減少させて、新しいスキルを教えるプログラム、ある社会的状況でどう行動すればいいかを教えるプログラム、他の人と話する時、どのようにすればコミュニケーションがよく取れるようにするかを教えるプログラム等です。こうした学習プログラムの多くが、応用行動分析(ABA)理論基づいており、好ましい行動を補強し、好ましくない行動を少なくする方法を取っています。
 

薬物療法
 現在、自閉症を完治させたり、自閉症の中心となる症状を改善する薬物治療は存在しません。さらに、自閉症の治療薬としてFDA(食品薬品管理局)より認可されているものはありません。しかし、薬物治療によってある症状を緩和することはできます。例えば、精神刺激薬で、過活動性を改善したり、向精神薬で反復性行動や攻撃的行動をコントロールしたり、抗うつ薬で不安感、うつ状態、強迫神経症的症状を改善したり、抗けいれん薬でけいれんを治療したり——という具合です。自傷などの行為を抑えたり、学習やコミュニケーションに集中できるように薬が処方されることもあります。但し、どの薬もすべての自閉症の子供に効果があるわけではありません。試験的に使用されたり、様々な量や薬の組み合わせで、症状の改善を図る場合もあります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs―― 抗うつ薬として使われている薬ですが、体内の生化学的システムのアンバランスからくる強迫的行為や不安の治療に使われます。また、反復行動を改善したり、落ち着きのなさ、激情、攻撃的行為を抑えたり、視線が合うように改善する効果を持っています。 
三環系抗うつ薬 ―― うつ状態、強迫的行為の改善に使われます。この薬はSSRIよりも副作用が問題になりますが、特定の人にはより効果が認められることがあります。
精神賦活薬向精神薬 ―― 自閉症の治療に最も研究されている薬です。過活動性を抑えたり、ステレオタイプ行為を抑えたり、引っ込み思案になったり、逆に攻撃的になったりするのを最小限にします。
精神刺激薬 ―― 集中力を高め、過活動性を静めるために使われます。但し、副作用のモニターを頻回に行なう必要があります。
抗不安薬 ―― 不安や、パニック障害を和らげます。
セクレチン ―― セクレチンは小腸から分泌されるホルモンですが、1990年代に、消化器の検査時にセクレチンを投与された自閉症児症状の改善がみられたという報告がありました。ただ、その後の臨床試験では、特に効果は証明されませんでした。
 

理学療法と職業訓練
 理学療法では、体の動きや姿勢、バランスを改善するために活動や運動を勧めます。他の子供と体の接触を避けようとする自閉症の子供を助けたりします。
 職業訓練では、特別に使いやすくしたコンピューターマウスやキーボードを用意したり、自閉症児の興味や能力に見合ったスキルを身に付けるように手伝います。
 

その他の治療法
 アート療法、音楽療法、特別なダイエット、サプリメント、接触や音に対する過敏性を和らげる治療法などがありますが、これらの治療法の効果は必ずしも科学的に評価されているわけではありません。
 
 
自閉症児の両親が行うアプローチ
 
 自閉症児の親が先ず行うアプローチ信頼のできる治療チームを探すということでしょう。アメリカではチームで治療をすることが多いので、多くの場合、かかりつけの小児科医を通じて専門医に紹介され、治療チームに接触することになります。セラピストだけではなく、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、サービスコーディネーターなど、いろいろな職種の人と接触し、法的あるいは財政的な面でも助けてもらうことができます。
 自閉症の子供を育てるのは身体的に疲れ、情緒的にもへとへとになります。親が疲れ切ってしまわないように、リラックスしたり、運動したり、自分の楽しみや活動を行うために時間を割くことも必要です。また、夫婦の結婚生活や他の家族にもストレスになることがあります。連れ合いと外食するような余裕を持つことも必要です。子供が寝た後に一緒にテレビで映画を観たりするだけでも構わないのです。他の子供とも1対1で時間を十分割くことも重要です。こうしたことをするためには、家族以外の社会的サポートが必要になるかもしれません。
 自閉症児のいる他の家族と交わることも大事でしょう。自閉症児を持ち、奮闘している他の家族からいろいろ有用なアドバイスが得られるかもしれません。自閉症児の家族を対象にしたさまざまな団体があります。
 自閉症に対する正しい知識を身に付けることは、自分の自閉症を持った子供をより理解し、その子供が伝えようとしていることをより理解できることに繋がります。
 
 
アメリカでの早期介入と教育プログラム
 
 アメリカでは、どの州もその州独自の早期介入プログラムを持っています。0才から3才までの乳幼児を対象し、行動療法、早期発達教育、コミュニケーションスキル、OT(職業訓練)
PT(理学療法)などが行われます。
 自閉症児は、3才以降高校卒業(あるいは21才)まで無料で公教育を受ける権利を保障されています。自閉症児に対する教育は、11、小グループ、教室による教育の組み合わせで行われます。特別教育を受ける資格がある子供は、子供の家族、教師、学校心理療法士、発達専門家たちが協力して、個別教育プラン(IEP)を作ります。
 
 
自閉症と関係のある障害
 
 自閉症があると、他の障害を持つ確率も高くなります。例えば、精神遅滞を起こす脆弱X症候群、腫瘍が脳内で大きくなっていく結節性硬化症、てんかん、トレット症候群、学習障害、ADHDなどです。
 睡眠障害、アレルギー、消化不良なども自閉症の子供によくみられます。これらは、環境を変えたり、薬による治療可能です。こうした治療は自閉症そのものを改善するわけではありませんが、生活の質の向上に役立ちます。

 

 

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の200751日と61日号に掲載

 

 


                 




ドクトル・KIMの診察室