注意欠陥多動性障害(ADHD

1845年、ハインリッヒホフマンという精神科医によってADHD が紹介され、この160年間に、ADHDに関する研究が何百何千となされ、ADHDに関する考え方も随分と変わってきました。今日、アメリカでは35%の子供がADHDだと推測され、その数は約200万人にも上り、2530人規模のクラスに1人の割合でADHDの子が存在します。

ADHDとは

 注意欠陥多動性障害は、日米ともADHD (Attention deficit-hyperactive disorder の英語の略語) という言葉が一般的に使用されています。ADHDは、注意を払い、それを持続したり、活動レベルを.調整したり、衝動的行為を加減することが上手くできない障害のことを言います。すなわち、注意欠陥、多動性、衝動性の3つの症状群を主とする障害なのです。

 これら3つの症状は必ずしも同時に出るとは限らず、多動性と衝動性だけ先に出て、後から注意欠陥が出ることもあります。衝撃行動のためにしつけが足りないと誤解されたり、逆に、注意欠陥で受身的なために積極性が足りないと誤解されることもあります。また、多動性があまりなく注意欠陥が主で、静かな子供はADHDを見逃されることもあります。

 ADHDは男子に多くみられ、頻度は女子の数倍です。しかし、最近の調査では女子も予想以上に多いことが推測されています。

 ADHDの原因

 現在までの研究では詳しいことはまだ分かっていませんが、前頭葉線条体という脳の部位における、ドーパミンとノルエピネフリンという神経伝達物質に関する異常によるものだと考えられています。前頭葉は、脳の前部に位置し、考えたり、問題を解決したり、計画を立てたり、他人の行動を理解したり、衝動を抑えたりする高度な機能を持つ脳の一部なので、前頭葉の異常がADHDの症状を起こすのは十分考えられます。遺伝の関与はある程度認められているようですが、他に、出生体重1,000g未満の超低出生体重、妊娠中のたばこやアルコールの暴露などの環境要因、頭部外傷、白砂糖の摂取、鉛への暴露などの関与が示唆されていますが、実際の関与の度合いは研究によりまちまちです。

 ADHDの症状

 ADHDの症状は前述したように3つの大きな症状群に区別されます。すなわち、注意欠陥、多動性、衝動性という3つです。これらの症状によって、ADHD3つのタイプに区別されます。注意欠陥、多動性、衝動性の3つが揃っているタイプ (ADHDの約80)、注意欠陥が主なタイプ (1015)、それに多動性と衝動性が主なタイプ (5) です。それぞれの症状について説明します。

注意欠陥ある特定のことに注意を払い、それを持続するのが困難な状態です。楽しいことをしている時は比較的長く注意を持続することができるにも関わらず、課題を与えられても数分すると退屈になってきたり、新しいことを学んだり、与えられた課題を順序立てて行うのにも困難をきたします。宿題は特に大変で、それは宿題が何かを書き忘れたり、書き留めたものを学校に忘れてきたりするからです。宿題をやり終えたとしても、間違いが多くあったりします。

多動性絶えず動いているような状態。いろいろなものに触ったり、絶え間なくしゃべり続けたり、食事時に静かに座っていられないとか、授業中じっとしていることができなくなったりします。自分の席にいるときは絶えずそわそわしたり、足を動かしたり、鉛筆で音を立てたりします。

衝動性行動する前に、考えたり、行動を適度に調整できない状態。うっかり不注意なことを言ってしまったり、結果を考えずに行動してしまったりします。遊ぶ時に順番を待てなかったり、他の子供からおもちゃを取ってしまうこともあります。

 他動性や衝動性があるだけではADHDとは限りません。他動性や衝動性の症状のある子供は多いので、重要なのは、そうした症状がその子供の発達や年齢にとって不相応であるということなのです。すなわち、そうした症状が通常の度を越えて長期に存在し、学校の教室、運動場、家、地域などで生活をしていく上で障害になっていることが診断上重要なのです。ADHDのいくつかの症状が存在しても、学校の課題や宿題をこなし、友人関係も正常で、教室でも家でも、特にそれが障害になっていないときはADHDとは言えないのです。

 ADHDの診断

 ADHDの診断には、決め手になるような身体的特徴や血液検査などもなく、ADHDの症状の有無で診断をしていきます。通常は、DSM-4-Rの診断基準に従って診断します。統合失調症、不安症などの精神的疾患がないことが条件になっています。(以下の私訳診断基準中にある「よくある」という表現は全て、オリジナルの英語版診断基準中で使用される "often" の訳です)

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 ADHD 診断基準(DSM-4-R

 診断のためには注意欠陥、または多動性及び衝動性、あるいは両方が存在すること。 注意欠陥に関しては、以下に挙げる症状のうち、6つ以上が不適切で発達水準に見合っていないレベルで6カ月以上続くこと。

1)細部に注意を払うことができず、不注意な過ちをすることがよくある。
2)注意を持続することが困難なことがよくある。
3)人の言っていることを聞いていないように見えるときがよくある。
4)最後までやり遂げることができないことがよくある。
5)与えられた課題を順序立てることが困難なことがよくある。
6)持続した注意が必要な仕事 (課題) を避けることがよくある。
7)ある活動や課題に必要なものをよく失くすことがある。
8)周りからの刺激で簡単に注意を散らしてしまうことがよくある。
9)忘れっぽいことがよくある。

 多動性と衝動性に関しては、以下挙げる症状のうち、6つ以上が不適切で発達水準に見合っていないレベルで6カ月以上続くこと。

1)よくそわそわする。
2)自分の席からよく離れる。
3)余計に走り回ったり、高い所へ登ったりすることがよくある。
4)静かに余暇活動につくことができないことがよくある。
5)絶えず動き回っていることがよくある。
6)しゃべりすぎることがよくある。
7)質問が終わる前に答え始めてしまうことがよくある。
8)順番を待つのが困難なことがよくある。
9)人の邪魔をしたり、妨害することがよくある。

 こうした障害を起こす症状は7才以下で出現している。あるいは、学校、家、職場など2つ以上の状況で存在する。 他の著しい発達障害、統合失調症や他の精神障害の経過中に起こっているわけではないこと。 他の精神疾患 (例えば、気分障害や不安障害) で上手く説明できない。

 

 ADHDの診断での注意点

 ADHDの診断には、本人、親、学校の教師の協力が必要です。学校での行動や成績、人間関係、家の中での行動などを調べます。行為に関するチェックリストを利用し、症状の有無頻度をチェックします。子供の発達、気質、睡眠パターン、気分、人間関係、悩みなども調べます。出生時や出生前の記録、母親の妊娠中の薬物の暴露、ADHDや他の精神疾患の家族歴も大切です。

 また、ADHDの診断の際、他の疾患とのオーバーラップや、他の精神疾患の有無も重要です。例えば、学習障害、言葉の障害、反抗挑戦性障害、気分障害、不安障害、うつ病、適応障害などが同時にあるかどうか、あるいは ADHD以外の疾患の可能性や、ADHDに似た症状を起こす他の要因があるかどうかも調べる必要があります。子供の親、祖父母、他の親しい人の死、両親の離婚、本人のけいれん (例えば、側頭葉けいれん)、滲出 (しんしゅつ) 性中耳炎、他の内科及び精神科疾患、ぜい弱X症候群のような遺伝性疾患の有無を調べることも大切です。

 ADHDに伴いやすい障害と疾患

 ADHDには、学習障害、ツレット症候群、反抗挑戦性障害、行為障害、不安障害、うつ病などが伴うことがあります。

学習障害は、就学前では特定の音や言葉の意味を理解するのが難しかったり、就学後では読み書きや算数ができないといった障害になって現れます。

ツレット症候群というのは、チックや、まばたきやしかめっ面などの反復性の動きをする神経学的疾患ですが、ADHDでツレット症候群を伴う子供は少ないのですが、逆に、ツレット症候群があるとADHDを伴う子供が多くなります。

反抗挑戦性障害 (ODD) は男の子に多いのですが、頑固、不従順で、挑戦的な態度を取ったり、大人に口答えをして従うことを拒否したりします。

行為障害 (CD) はより深刻な障害で、ウソをついたり、盗難、けんか、いじめを行うレベルから、空き巣、武器の所持や破壊活動を行うレベルまで、様々な反社会的行為を行う障害ですが、ADHDに伴うリスクは決して低くはありません。

不安障害、うつ病ADHDが同時に存在することがあります。不安障害やうつ病を早期発見し、適切に治療するとADHDの症状が緩和されることがあります。また、逆に、ADHDを適切に治療することによって、不安障害やうつ病も改善することもあります。

 ADHDの治療

 ADHDの治療の基本は、精神刺激薬であるリタリンのような薬を使用する薬物療法ですが、薬物療法以外にも、行動療法、心理療法、あるいはADHDの子供を治療訓練するだけではなく、ADHDの子供を持つ親を訓練する方法もあります。治療目的は症状のコントロールだけでなく、教室での態度や成績、人間関係の向上または維持、大人への過渡期を乗り越えることなどがあります。目標は計測できるもので決めます、例えば、週に何回学校の先生に注意欠陥を報告されたとか、宿題にどれだけの時間を割いたとかです。

 薬物療法

 ADHDの薬物療法は精神刺激薬が中心です。メチルフェニデイト (商品名はリタリン他) と、デキストロアンフェタミン (商品名はデキセドリン他) 2種類です。この2種類の薬は、これまでの研究で効果と安全性が実証され、78割程度ADHDの子供の症状を改善を示します。頻度の比較的高い副作用としては、食欲減退、胃痛、頭痛、不眠、不安、身長の伸びの低下などがあります。

 精神刺激薬以外にはアトモキセチン (商品名はStrattera) と ブプロピオン (商品名はWellbutrin SR ) という2種類の薬がよく使われます。アトモキセチンはノルエピネフリンの再取り込みを阻害する比較的新しい薬です。効果は認められていますが、副作用には肝機能の低下 (まれに重症化することあり)、食欲低下、体重減少などがあります。ブプロピオンは抗うつ薬の一種ですが、子供にはまだ使用できません。また、上記以外の薬物も使用されることがありますが、一般的ではありません。

 ADHDの治療は、最初に精神刺激薬を使用することが多いのですが、通常は単独の薬を使います。薬物療法で大切なことは、薬でADHDの症状は改善するのですが、これはあくまでも症状をコントロールしているだけで、ADHDを根本的にに治療をしているわけではないということです。また、薬物療法によって、遅れている学業が自動的に進むわけではないので、注意が必要です。

 行動療法 (BT)

 行動療法は、差し迫った問題に対して効果的な対処法を子供に教えるセラピーです。子供の考え方や問題への対処の仕方を変えることによって、行動の取り方を変えるように導きます。例えば、与えられた課題や宿題などを順序立てたり、感情を高ぶらせるような事態に対する対処の仕方を具体的に指導します。怒りをコントロールできたら褒美 (ほうび) を上げたり、行動する前に考えるように現実的に助けます。行動療法は薬物療法よりも効果が低いので、先ず単独で行われることはありませんが、反抗的態度や親と子供の関係を改善するのに特に効果があるようです。

 心理療法

 ADHDの子供に、自分を好きになって、自分を受容するように働き掛けます。心理療法士に自分の経験を語ることによって、子供自身が自分の行動パターンを学び、自分の障害と付き合っていく方法を理解していくのです。

 ソーシャルスキル訓練

 この訓練では、ADHDの子供が他の子供と関係がうまく取れるようセラピストが協力をします。例えば、遊びの順番を待ったり、おもちゃを一緒に共有したり、からかいに対応したり。子供にこうした行為をする機会を与えて練習させます。また、子供は相手の表情や声の調子から、どういう対応を取るべきかを学びます。

 親の訓練

 ADHDの子供を持つ親に、ADHDの子供の行動への対処の仕方を教える訓練です。例えば、子供が良い行為をした時には、子供が欲しがるような何らかのご褒美を上げ、逆に、子供が全然言うことを聞かなければ、椅子に坐らせたり、ベッドルームでしばらく独りにさせたりして、静まれるような技術を教える訓練なのです。すなわち、報酬と叱るということで子供の行為を改善させる方法ですが、先ず、親が好ましい行為をいくつか示します。例えばおもちゃをつかみ取る代わりに、おもちゃを使っていいかの許可を求めるようにさせるとか、あるいは単純な課題を与えて、その課題を完結させるようにするとかです。子供には、どのようにしたらご褒美がもらえるかを具体的に教えます。好ましい行為をした場合はご褒美を上げますが、反対にできなければ軽い罰を与えます。

 ご褒美で上げるものは、シンプルであっても、子供が非常に欲しがっているような物が理想です。罰は、上げたご褒美やトークンを取り上げるとか、短時間だけ遊びをやめさせたりといった程度のことです。長期的な目標としては、子供に自分の行動をコントロールさせ、望ましい行為を選択させるということです。ADHDの子供には、正常児に与えるよりもより頻回にご褒美を上げる必要があります。

 また、子供が成功しやすいような状況づくりを学ぶのも大切です。そのために、大勢の子供と遊ぶと興奮してしまう子供には、一度に遊ぶ人数を1人か2人に制限します。何かの課題に取り組む時には、それをいくつかの小さな段階に分けて、その小さな段階が終了する毎に褒めてあげるのです。ご褒美と軽い罰は頻回に行う必要があります。より困難な状況では、子供に密接し、子供を励ましながら対処します。

 親はまた、自分のストレスに対する対処法も学ぶ必要があります。薬物療法、リラックスする技術、運動、欲求不満に対する耐久性を身に付けたりします。 こうした一連の子供と過ごす時間の中で、子供とリラックスした楽しい貴重な時間を作っていくことが大切なのです。

 その他の治療法

 アメリカでは、ADHDの可能性のある子供は学校教育の中である程度フォローされます。自冶体によっては、学校の教師、カウンセラー、心理学者、ソーシャルワーカー、あるいは医師が加わって、チームワークでその子供にとっての最善の教育環境を追及していきます。治療に関しては、親、教師、医師らが連携して行います。治療評価は本人、親、教師の協力なしにはできないのです。

 不安障害、反抗的態度、親と子供の関係、社会性を養うのには併用療法が良いようです。また、併用療法だと、使う薬の量が少なくてすむ可能性もあります。

 他に、運動、フィードバック、キレーション療法、ビタミン剤などが使用されていますが、実証はほとんどされていません。砂糖が行動に影響しているという報告もありますが、例え影響が認められたとしても、その確率はADHDの子供全体の1%以下にすぎません。

簡単にできる改善法

スケジュールを立てる―― 朝起きてから、夜寝るまで毎日の決まりきった予定を作る。例えば、宿題をする時間、遊ぶ時間、そうしたスケジュールを台所の冷蔵庫やコルクボードに掲げておく。もし、スケジュールを変更する場合は、十分に時間の余裕をもって変更する。

毎日必要な物を整理する―― 必要な物を全て一箇所に置いておく。服や、バックパック、文具用品、学校で使用するものなど。

宿題とノートオーガナイザーを使う―― 宿題内容を書き留めたり、必要な本を家に持ってくることを強調します。

 ADHDの子供と学校

 もし、子供の学校での行為に問題があったり、担任の教師からADHDの可能性を示唆された場合は、その学校区の担当者に頼んで、子供がADHDであるかどうかの評価をしてもらいます。学校側の義務で行ってもらえるので、教師やカウンセラー、小児精神科医などが協力します。また、学校側から専門家を紹介されることもあります。自分で、掛かり付けの小児科医、あるいは心理学療法士、小児精神科や神経科、カウンセラーなどの専門家に連れて行ってもかまいませんが、学校の担任教師との連携は必要です。

 (今回の記事は、アメリカ国立精神衛生研究所の資料を参考にしています)

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2005年5月1日号と6月1日号に掲載






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